藤井研究室(2010年版)
「ケラチンフィルムの提供」に関する情報
2010年6月
【案内】
信州大学繊維学部 藤井敏弘教授のグループで開発した、ヒト由来の毛髪タンパク質からつくられた"ケラチンフィルム"の提供を始めております。
ご希望の企業、研究機関などは以下の案内資料をご覧ください。
日本語版PDFファイル
英語版PDFファイル(PDF document in English)
内容-1(2009年1月)
図-1にフィルムの写真とSEM像を示します。紫外線による髪の毛のダメージ具合は、第1段階のタンパク質の酸化から第3段階のキューテクルの剥離まで進んでいくと考えられております(図-2)。今までの方法では、第2段階を検出するのに大変な労力をはらい、しかも定性的な測定であるためヘアケア製品の開発に利用することは困難な状態下でありました。今回の方法は手触りや、視覚では検出ができない程度のダメージを蛍光顕微鏡により可視化し、画像解析をおこない定量化しました。これによって、初期段階の毛髪ダメージの検出を可能としました。また、今までの研究・開発では毛髪自体を使用しておりましたが、毛髪タンパク質からつくられているケラチンフィルムを利用するという、発想の転換も行われました。このことは、を2009年1月にプレス発表しました。
(参照:http://www.shiseido.co.jp/ken/research/2009/r_09_01.htm)
図-3に電気泳動によるケラチンフィルムの構成成分を示しており、ケラチンを主成分としており、分解はほとんどありません。
図-4にケラチンフィルムの紫外線感受性(暴露時間による酸化タンパク質量の変化)の結果を示します。いずれのロットも、紫外線感受性を有しております。
内容-2(2010年6月)
「ケラチンフィルムを利用した毛髪ダメージ評価」の研究には、主に2つの大きな問題がありました。
問題1 紫外線以外のダメージ評価への適用性
ヘアダメージを引き起こすブリーチ処理、パーマ処理、熱処理にケラチンフィルムは耐えられ、各種ヘアダメージ評価に利用できる知見を得ております。
問題2 ケラチンフィルムの生産と提供
2009年までは、十枚単位でしか生産できませんでしたが、現在では百枚単位で生産できるようになってきております。生産体制に加えて、品質管理に関しての知見も蓄積されてきたため、企業や研究機関へのケラチンフィルムの提供をはじめることにしました。
この研究(特に、フィルムの生産と品質管理)は、文部科学省の「知的(地域)クラスター創成事業(第U期)」の一環として実施されているため、このようなサービスが可能となっております。
期待される用途
・ 髪の毛で発生する各種ダメージへの評価
・ ヘアケア製品の開発
・ 美容関連の機器の開発
・ 紫外線関連の研究と開発
・ 毛髪タンパク質および硬ケラチンの研究
・ その他
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「セルフリサイクル」という概念を提唱しております。
セルフリサイクルとは、“自己由来の組織や生体物質を原材料として有用な加工品へと変換すること”を言います。
Q:『自己由来の組織というのは移植医療で使う臓器なのでしょうか?』
A:『いいえ、ここで使用するのは、髪の毛や爪といった私たちが日常生活で廃棄しており、再生可能な組織で採取も容易であるため、これらを第1ステップでの対象としております。』
Q:『廃棄はしておりませんが、血液などは使用しないのですか?』
A:『今のところは使用しません。再生可能な血液も献血されている大量にとれる点では魅力的ですが、採血操作や保存はやはり大変であります。また、肝炎などのウイルスの問題もあります。しかし、髪の毛と爪の研究にめどがたてば、第2ステップでの対象と考えております。』
Q:『有用な加工品とは何ですか?』
A:『下記の「研究の概要」の中で説明します。概略と大まかな流れはパネル-1に載せてあります。』
研究の概要:主に2つのテーマで研究を紹介します。
・セルフリサイクル製品の創出と高度利用化
Q:『セルフリサイクルの対象である毛髪や爪は生きているようには見えませんが、これらを使用することで大丈夫なのでしょうか?』
A:『本研究で使用する毛髪と爪は死んだ細胞の塊であります。しかし、もともとは生きておりましたので、DNA, タンパク質などの生体分子は含まれております。毛髪を中心に研究を進めておりますので、これについて主に説明させて頂きます。』
Q:『では、毛髪はどのように、また、何からつくられているのですか?』
A:『パネル-2を参照してください。髪の毛は外側からキューテクル、コルテックス、メデュラの3層構造からなっており、コルテックスが80%以上を占めております。人の毛髪の成分としては70〜80%がタンパク質から構成されており、その主成分はコルテックスに分布するケラチンと呼ばれているタンパク質です。コルテックスは (マクロフィブリル)n、マクロフィブリルは (ミクロフィブリル)n、ミクロフィブリルは (プロトフィブリル)n、プロトフィブリルは (ケラチン-フィラメント)n からといった階層構造で作られております。爪も同様にケラチンを主成分とした組織で、両者のタンパク質は非常に類似しております。』
Q:『死んだ細胞の塊である毛髪や爪を研究して何になるのでしょうか?』
A:『毛髪および爪の細胞は死んでいても残っているタンパク質(ケラチン)は機能的には生きておりますので、私たちはその性質を利用しております。これを本当に意味があるモノにできるかはわかりませんが、意味をもつ製品に創り上げるために試行錯誤しながら研究をしております。』
Q:『では、タンパク質が生きているというのは、どういうことなのですか?』
A:『専門的で難しくなりますが、ケラチンは細胞骨格タンパク質の中間径フィラメントに属しております。アクチン、微小管と比較して ATP、GTP などの高エネルギー化合物を消費することなく、イオン強度などにより直径約 10 nm の枝分かれのないフィラメントに重合しファイバーを形成します。比較的安定した構造を保ち細胞内で形態形成とその維持、外的圧力への抵抗といった機械的な強度の機能を果たしております。すなわち、死んだ毛髪細胞からのケラチンであっても自己集合できる性質を保持しているため、試験管の中でフィラメントを作ることができます。生理機能としては生きているのです。
また、筋肉もそうですが、生物はナノサイズのファイバーを上手に使って生きてきております。DNAもさらに細いファイバーから作られており、遺伝子情報をこの中に組み込んでおります。』
Q:『自己由来である毛髪や爪を使うとメリットは何かいいことあるの?』
A:『他人や動物からの原材料ではなく自己由来のため、ウイルス感染はもちろん、アトピーなどの究極のアレルギー対策製品のひとつとなります。拒絶反応が低いことが予測されますので、生体適合性に優れた製品となることを期待しております。』
Q:『次に、高度利用化の具体的なモノは?』
A:『前の質問の“有用な加工品とは何ですか?”への回答にもなりますが、ナノバイオエンジニアリング分野としてアクチュエータ、薬物送達システム(DDS)、リアクター、センサー、生化学・細胞工学分野での新規の材料提供を考えております。化粧品、機能性繊維、医用材料、研究開発などの領域での使用を考えております。もちろん、本学部の重要な研究資源であります“ファイバー”と“ナノ製品”にも深く関係します。』
Q:『タンパク質からこのような加工品、そして製品ができるのですか?』
A:『タンパク質を、工学、ナノテク、医学、薬学などの分野で使用する場合、多くの欠点を含む特性をもっております(パネル-3)。しかし、毛髪、爪、羊毛、羽毛、絹に含まれているタンパク質は、これらの欠点をある程度カバーする性質を備えております。自己集合能を含めたこれらタンパク質の特性を生かし、いろんな形状に変化させて応用製品へと進化させることを研究しております(パネル-4)。基本的な方針は パネル-5&6 を参照してください。』
Q:『今までに何か加工品はできているのですか?』
A:『私たちの研究室では、毛髪タンパク質から下記の加工品へと変換する技術を独自で開発してきております。』
・ フィルムへの変換(パネル-7;学部内のいくつかの研究室と共同研究)
・ ファイバーへの変換(パネル-8;学部内の山本(浩)/大川研究室と共同研究;Macromol. Mater. Eng. の表紙に取り上げられております)
・ 微粒子への変換(パネル-9;学部内の小林研究室と共同研究)
長い話にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。